読売テレビの新型報道ヘリコプターの紹介

 2022年9月に全面更新した新型報道ヘリコプターについてご紹介します。
このヘリコプターは、エアバスAS365N3+という機種で、報道取材ヘリとして多くの導入実績があります。
 また、最新のFPU(フライト・パック・ユニット)を搭載することにより、機器の軽量化と伝送の安定性の向上を図りました。
 さらに、防振カメラや運航支援システムなども最新のものを採用しました。


設備概要

このヘリコプターは、3時間以上の航続時間確保を目標に機材を検討しました。
以下に主要な設備概要を示します。

  • 防振カメラ(東通インターナショナル)
    • 防振装置 CINEFLEX T2(GSS)
    • レンズ UA46x13.5(富士フイルム)
    • カメラ NC-H1200S(NEC)
  • 自動方調アンテナ(東京計器) ADS-128
  • FPU(日立国際電気)
    • 送信機FR155-ZS200×2式
    • 受信機FR-ZS200、FR-ZU200
  • 収録機 PMW-1000(SONY)
  • 連絡線 VHF無線機/UHF無線機/衛星電話
  • ICS設備全般、マップシステム (コスミックエンジニアリング)

 搭載機材の総重量は以前の機体から60kg減の約392kgとなり、3人搭乗での航続時間も3時間以上を確保することができました。


FPU送信系統

 FPU設備は、空撮での生中継において最も重要な設備であり、今回もその設計に最も注力した部分です。特筆するポイントはB71の採用です。B71とは、ARIB STD-B71という規格で、デジタル放送用地上移動局伝送方式の一つです。従来からB33のOFDMは利用できましたが、B11による伝送と比較して、所望電界が高く、積極的に利用していませんでした。しかし、B71となってからは所望電界がB11よりも改善され、低電界での利用にも有利となりました。

 従来の機体では、B11の16QAM3/4でMPEG2を利用していましたが、H.264であればもう少しレートを落としても画質が保てるので、この機体ではB33またはB71で16QAM1/2での運用を基本としました。

 B71では5dB程度改善し、-89dBmまで破綻せず利用できます。10dBのマージンを考えても、-79dBmあれば安定運用できます。7GHzで送信電力1W、切替器等の損失を10dBとして、計算すると150km以上伝送可能です。読売テレビの放送エリアがすべてカバーできる距離です。このことから、PA(パワーアンプ)無しでも十分運用できるとの結論に達しました。なお完成後の測定で損失は8.5dBであり、計算上200km以上安定伝送できることになります。

 取材ヘリは右旋回と決められているため、防振カメラ取付位置は右前方とし、左側も最低限撮影できるように可能な限り下につけました。この場合、送信アンテナに干渉するため、左右対称な位置に取り付けられず、行路差により切り替え時にエラーが出る可能性がありました。

 そこで行路差のあるアンテナ切り替えは、そもそも可能なのかを、日立国際電気、東京計器と共同で実験しました。生駒山送信所(標高650m)の屋上から、行路差を変えながら、B71対応基地局に向け送信しました。B11では行路差が短くなるとエラーが出ましたが、B33やB71では、いずれもエラーが出ませんでした。

 この実験結果より左右非対称でも問題ないことが分かり、右後方と、左前方に送信アンテナを設置し、左右切替基準位置は、防振カメラを避けて正面より9±2.5度としました。


運航支援システム(マップシステム)

 映像、音声設備と運航支援システムはコスミックエンジニアリングにより統合したシステムとしました。
 カメラ席とVE席には、必要最小限のワンマン画面から、詳細な設定画面まで様々なオペレーションができるタブレットPCを設置しました。

 通常の取材でカメラマンが一人で、通常の操作はこのワンマン画面の操作のみで行います。

 VE席には、タブレットPCと可動式のVE卓があり、生放送でレポータが乗る場合などはVEが同乗して操作します。


本線系統とリスク分散

 防振カメラ等の映像はMTXSW(マトリックススイッチャー)で選択後、音声1,2chをMUX(多重化器)する。またSxSデッキ等の出力はエンベデッド(埋め込み)であり、素材ごとにMUXをON/OFFする必要があります。このため、常時送信する必要のあるGPSやMAPデータはMUXを利用せずFPUへ直接入力しました。これにより緊急時などにFPUに直接SDI(シリアル・デジタル・インターフェース)を入力しても問題なく運用できます。

  FPU送信機やMUXなどは、各2式用意してリスクを軽減し、MTX SWの故障時にはMUXの手前にEMG SW(エマージェンシースイッチ)を設け防振カメラ映像のみの伝送ができるようにしました。

最後に

 今回ご尽力いただいた中日本航空㈱、㈱コスミックエンジニアリング、㈱東通インターナショナル、東京計器㈱、㈱日立国際電気、エアバス・ヘリコプターズ・ジャパン㈱ほか、ご協力いただいた各方面の方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。


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読売テレビ 技術局
湯川 洋輔
yosuke.yukawa@ytv.co.jp

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